文字による整理

en外在化

外在化させるツール

アームカットの季節

 自分の身体に傷をつける行為は手軽に強い痛みを得ることができる手段である。その鋭い痛みによって否応なく現実逃避が可能となる。そのような手段はあまりないため依存性がある。

 刃物で身体を傷付ける際に傷跡が残るが,切れ味の鋭い刃物で傷をつける場合は,あまり深く傷をつけない限り,数週間もすれば傷跡は目立たなくなる。問題は短期的な傷をいかに隠すか,断続的に傷を付け続ける場合はいかにそれを隠し続けるかである。

 自分の場合は他人に裸を見せるような青春を送ってこなかったので,幸いにして太ももを傷付けることができた。いわゆるレッグカットである。人によっては腹部を切る人もいるらしい。詳しいことは知らない。

 肌寒くなってくると合法的に長袖を着ることができる。すると傷付ける箇所に関する可用性が広がる。自分の場合それが腕であった。

 レッグカットで充分なのではないかと思われるかもしれないがそれは違う。腕と足では痛みが来る地点が違って新鮮味があるのだ。それは気持ちの良さに直結する。

 身体を刃物で傷付ける学生にとって敵なのは体育の着替えである。レッグカットの傷は半ズボンを下に着たままにしておけば隠すことができるが,アームカットの傷はそれができない。ただ経験上,細心の注意を払えば,たとえ着替えをしたとしても隠し通すことは可能である。日陰者であればあるほどその可能性は高まる。普通の人間は,アームカットの傷を隠しながら着替えをしているクラスメイトがいる,などとは想像しない。

 肌寒い天気が続く近頃だが,アームカットの記憶のせいで,それをしなくなった今でも,刃物で自分の身体を傷付けたい衝動に駆られる。