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en外在化

外在化させるツール

彼のために与えられた時間

 

 

 

ヒント:横スクロール = Shift + マウスホイール回転

マウスによっては、単にホイールを倒すことでもできる

 

 

 

 目の下に隈をつけた青年は、その細い手で神経質そうに口元を隠した。空は白み始め、建物の輪郭がだんだんと明確になっていく。彼は薄青に染まるオフィス街を、その一端を構成するビルの屋上から見下ろしていた。冷たい風が彼の頬を撫でる。髪の毛が目にかかる。

 夜明け特有の空気が彼を包んでいた。彼はこの空気について、「生物の死が白日の下に曝され、かつ未だ新たな生の供給がなされていない状態」と定義していた。彼は実質的に死んでいたので、この空気に強い親しみを感じていた。また彼は生物として、その空気を視認できることを喜ばしく思った。つまり世界が彼のために用意した時間は、このわずか数十分だけだった。

 無機質なコンクリートや、緑のビニールで保護された金網、ミニチュアのように止まった街並みは、彼の存在を肯定していた。彼は両手を広げ、それらを全身で感じた。白い肌に、赤いくちびるだけが不自然に浮いていた。街の青さは次第に薄れ、やがて光が生じ、それゆえに影ができた。彼はその方向に身をゆだね、ビルの縁から足を離した。