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数理モデルを運用することについて

 今読んでいる本に良い記述が出てきたのでメモ。

数理モデルの意味:経済学の数理モデルを使った分析は,物理学並みの精度で人間行動をぴたりと表すものではないが,単純化の仮定を置いて議論を見やすくし,結果として現実問題の本質的な一面を見抜くために役に立つ*1

 神取(2014)は「経済学」と限定しているが,これは広く数理モデル一般に当てはまるのではないか。数理モデルはあくまで,あまりに変数が多すぎて把握しきれない事象に対して,ひとまず核となる部分をピックアップし,分析するための道具にすぎない。数理モデルによって導き出された結論に対する反例は当然存在する。だからといって数理モデルの価値が失われるわけではない。例えば経済学であれば,複雑すぎる社会に対して,数理モデルを駆使することによって数十パーセントでも説明が付いたならば,それは大成功と言えるだろう。

 何をあたりまえのことをと思われるかもしれない。しかし例えば世間における(近代)経済学の評判を見るに,この議論の前提すら共有されているとは言いがたいのではないか。なにを隠そう,僕もつい最近まで「仮定に対する反例が出た場合,どのような場合においても当然仮定は棄却されるべき」ということを信じて疑わなかった。標準的な論理学*2で言えばそれは正しいだろう。しかし研究対象が複雑(これは「豊か」とも言い換えられるだろう)であればあるほど,それは必ずしも正しいとは言い切れない。「あてずっぽう」と「反例はあるが,多くのことを手軽に説明できる数理モデル」は,標準的な論理学で言えばどちらも無意味であるが,一般的には後者の方に一定の価値が見いだされるのは明白である。

*1:

色付け,太字は神取(2014)によるもの
神取 道宏(2014).ミクロ経済学の力 日本評論社

*2:

排中律を認める立場の論理